NHK:捏造と偏見問題は終わらない

イケガミアツコ

みなさん。世界的映画作家、河瀬“キックだけやない”直美です。私のパンチやキックの武勇伝を真摯にドキュメントしたNHK『BS1スペシャル河瀬直美が見つめた東京五輪』BPOが「放送倫理違反」やという意見書を出しました。プロの反対側が図に乗ってまた質問状を出したらしいので、ご報告しますね。

はい。面倒くさいので、以下は素で質問状の抜粋をご紹介します。BPOの意見書、長いんですけど、読みました?本文にはいろいろ新事実が公表されてるんですよ。

冒頭・概要でも、同番組は「重大な放送倫理違反」であるとして、単なる事実確認や字幕の問題だけではなく「デモの価値を貶めた」という社会性についてまで踏み込んでいます。しかし当日のNHK NEWS WEBにおいては、NHKのコメントとして「事実に反した内容を放送した最大の要因」を「事実確認をおろそかに」「取材対象者に対する緊張感を欠いて」いたの二点に絞って記載。この部分を略する態度からは、連発される「真摯に受け止め」がまったく感じられず、本年2月にNHKが出した、番組内容にまったく踏み込まない「報告書」と同様、事態を矮小化し続けています。

本文には更なる問題の指摘と、ヒアリングで明らかになった想像以上にひどい事実が。

この番組、全部ダメなんですけど、特に問題な場面が三つ。有名な「お金をもらってデモ」の山谷の男性、島田角栄が「プロの反対側」っていうこと、そしてここ、まさにこのJOC前でデモを見た河瀬が「オリンピックに寄り添うの人間として当たり前」みたいなこと言うやつ。

BPOが扱ってるのは前の二つなんですが、意見書でその二つの関連性もわかっています。島田の「プロの反対側」発言についても、その発言をNHKディレクターが番組内容に反映しようと考えた、と。

ディレクターと島田のズブズブっぷりは、番組の編集中に「男性は五輪反対デモに参加したか」「お金をもらったことはあるか」についての確認を求められたディレクターは男性本人にコンタクトしようとせず、島田に確認。番組放送後の本年1月に入ってからようやく男性にコンタクトするも、撮影時にも番組内容を説明してなかった!さらに、確認面談時にすら番組の該当箇所すら見せていない!これはNHKのガイドライン違反であり、意見書にも「男性は何が問題か認識できていない」とあって、こんな杜撰な調査ってあり得ないでしょう?

この、取材対象者の男性に対する信じがたい軽視はいったいなんなのか。「デモ参加者(実際はそうではなかった)」に対する軽視なのか、よもや日雇い労働者に対する軽視なのか。あるいは単なる取材ではなく、この場面がNHKと島田が男性を利用してあらかじめ特定の意図をもって作られたことによるものなのか。

放送後の島田に対する確認も、NHK側の言い分は(1)「プロの反対側」は男性のことか(2)男性にボカシをかけなくてよいか(3)男性は五輪反対デモに行く可能性があると述べていたか、と聞いて、島田は(1)と(3)を肯定したとしています。

で、島田はNHKからそうした確認をされたことはないと抗議して、NHKは即日謝罪。それならNHKが嘘をついてるの?BPOのヒアリングでも同じことを述べてるけど、BPOにも嘘ついてるの?そもそもNHKは島田にごめんなさいって謝罪したのみで、どっちの言ってることが本当かは放棄してるんですよ。

さらに「五輪反対デモに行ったことがあるか」については、今回の意見書で初めて、取材後道中にディレクターが男性との会話で「行く可能性は全然ある」を引き出したのが唯一だとわかりました。

ディレクターは取材中、それまで再三、しつこいまでに「五輪反対デモに行くか」と聞いては否定されているのに、この唯一のチャンスでは録音どころかメモすら取っておらず、島田も聞いていなかった、と。当然これもNHK報告書に記載されるべきことです。そしてなぜやりとりを聞いていなかった島田にこの発言について確認し、島田が「肯定」したとするのか。こんな明白な矛盾を放置したままでは、番組のみならず報告書もBPOの真相究明に対しての調査にも捏造で回答しているとしかいいようがないでしょう。

もちろん島田の方が嘘をついている、あるいは両方が嘘をついている可能性も充分にあります。それはBPOの「取材対象との距離」の指摘にもあらわれる、ディレクターと島田がズブズブだからです。

意見書は「取材対象者に対する緊張感を欠いていた」として男性に対する確認を怠った点のみならず、島田との緊張感を欠き、依存している、と指摘しています。つまり男性を軽視し、島田とは過剰に距離が近い。さらに意見書は当該ディレクターのみならず、制作全般での「デモや広い意味での社会運動に対する関心の薄さ」が本質的な原因であるとまで踏み込んでいる。その傾向は調査されたNHKスタッフ全体に蔓延し、BPO会見では委員から「あっけらかんと」無関心を表明したとまで言われていて、NHKでこの傾向が日常的であることがわかります。

この番組で表出したのは「デモへの関心の薄さ」どころではない。BPOは「結果的に」と保留しているが「デモの価値を貶めた」。これは意図的に、NHK、島田、公式映画が一体となってデモを敵視し、貶めている。

その根拠のひとつが島田の「プロの反対側」発言です。『ニュース女子』でも使われた「デモはお金で動員」と貶める典型的な語彙じゃないですか。意見書で出てきたのは、「これを聞いたディレクターは『プロの反対側』に男性を充てることにした」です!島田の「プロ」が「お金をもらって」を意味することの証拠じゃないですか!

このような語彙を使う島田に密着して「緊張感を欠いた」状態で「関心のない」デモについて取材するディレクターにどのような作用をしたのか。

島田だけじゃないです、根本的には河瀬ですよ。JOC前のデモを隠し撮りした河瀬直美が、そののち車の中で「オリンピックに関わる人が一生懸命やっているのに感動し、その人たちに寄り添うのは人間として当たり前やと思うねんけど!」と。デモをして反対するのは人間として当たり前ではないのか。河瀬、島田、公式映画は社会性・倫理観を欠き、デモに対して一片の敬意すら持っていないことは明らかです。

公式映画もNHKも当然五輪の組織に組み込まれており、いかに社会批判的視点を取り入れたふりをしようとも、もともとスタンスが五輪の外にはありえない。その発露が番組中での屈指の問題発言である河瀬氏の「オリンピックを招致したのは私たち日本人」であり、実際に(お金で)招致したJOC、日本政府の意向を社会全体に押し付けて当然という思考回路です。

意見書でも「NHKの五輪関連の伝え方には本件以前からさまざまな批判が投げ掛けられ」とし「何らかの意図が局側で働いた」と書かれています!結論は「取材相手と社会に対するリスペクトを失わないことが重要」ですが、こう書くってことは、現状すでにリスペクトがないってことです。

大量の五輪競技放送をおこなうNHK全体が、そして本番組の制作者が、河瀬・島田とともに五輪に寄り添い、自分たちのレゾンデートルである五輪に反対するデモをどう見つめたのか。「人間として当たり前」ではない、として敵視し、映像と放送という権力を使って、BPOもいう「民意の重要な発露としての市民の活動」を偏見をもって貶めた、としか言いようがありません。

今回の意見書でいろいろ判明したので質問状を出しました。速達で、回答きました。なーんにも書いてないです!質問状なのに「お詫びします」のひと言。だいたい、これまでデモの場面が問題だというのに、私たちに調査もしない。BPOが出て、総務省に指摘されて、ようやくNHKひと言「デモ主催者にお詫び」しましたけど、何が悪い、何について謝罪するのか書いてない。そんなの謝罪じゃないですよね!で、週刊金曜日が問い合わせたら「何回も謝罪してます!」ってキレたらしい。何回も…?また捏造ですね!

捏造が捏造を呼ぶ、謎が謎を呼ぶNHK、そして河瀬直美!面倒くさいけど、まだまだ追及しなくてはいけません。

質問状と「お返事」全文はこちら。