該当箇所・意見内容・理由 「1オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現」について オリンピック憲章の人権尊重では「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗 教、政治的またはその他の意見、 国あるいは社会的な出身、 財産、 出自や その他の身分などの理由による、 いかなる種類の差別も受けることなく、 確 実に享受されなければならない」と明記されているにもかかわらず、条例は、 この趣旨を包括するものになっていない。 そもそもオリンピック憲章をひきあいに出して、人権尊重のための制度を構築 するという東京都の姿勢そのものに疑問がある。 なによりも東京都は、日本国憲法が政府や自治体など公権力に義務づけている 基本的人権の保障を自治体の施策として具体化すべきである。条例は、もっぱ ら民間企業や都民に対してのみ人権尊重を義務づけるような内容になっており、 東京都の人権に関する取り組みそのものを改革する意思がない。したがって、 条例では、オリンピック憲章を口実に、憲法が定めている公権力に対する基本 的人権保障の義務づけをないがしろにする危険性すらある。 憲法13条では「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が明記されてい るが、オリンピックの開催を理由に、競技場建設など施設の建設などが優先さ れて、地域住民の追い出し、公園などで暮す野宿者の排除などが強制的に実施 されてきた。こうした、都の政策は憲法13条の理念に明かに反するにもかかわ らず、条例案は、こうした行政による人権侵害を反省するどころかむしろ、こ れをオリンピック憲章を持ち出すことで隠蔽していると言わざるをえない。 したがって、人権尊重の理念に実現をいうのであれば、まず、都自身がオリン ピック開催に伴って行なってきた人権侵害ともいえる政策それ自身を人権侵害 の被害者たちに真摯し謝罪し、権利の具体的な回復措置をとることこそが人権 尊重の理念を体現することではないかと考える。 「2 多様な性の理解の推進」について そもそもオリンピック競技の枠組は性的多様性を前提としていない。競技にあ るのは「男性」と「女性」という二つの性的な分類があるだけであり、しかも 生物学的な分類への偏りが顕著である。もし都が性的多様性を基本的人権とし て保障するのであれば、オリンピック競技のありかたと性的多様性の間にある 根本的な矛盾に向き合い、オリンピック競技を返上すべきである。 条例はもっぱら多様な性への理解を民間企業や都民に求めるばかりで、都の行 政や法制度そのものにある性的多様性と矛盾する制度への取り組みが一切含ま れていない。たとえば、同性婚への法制度上の差別が明確にあるが、こうした 制度上の問題への取り組みの姿勢がまったくみられない。東京都に性的少数者 の権利を文字通り保障する真摯な意思があるとはいえず、むしろ性的少数者を 東京都が自らの公権力の利益のために利用しているという疑念の方が大きい。 性を巡る多様性は、LGBTに限らず全ての人々の生き方の自由の権利と深く関わ る。婚姻についても、戦前の家制度の伝統が根強く、家と家との間の婚姻儀礼 が結婚式では通例となっているが、こうした民間で行なわれている家制度を前 提とした婚姻慣習の問題、学校現場における性教育をタブー視するような傾向 (LGBTを前提とした性教育など全く考慮されていない)など、性差別を根底で支 える問題への取り組みを反省する姿勢がみられない。 「3 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進」 条例は、「本邦外出身者」が直面している差別の問題をもっぱら言動や表現活 動に絞って規制しようとしており、「本邦外出身者」への法制度や自治体の差 別的な政策への反省と差別のない制度の再構築に取り組む姿勢が全くみられな い。小池知事は、朝鮮学校への東京都の補助金支給停止の方針をとっているが、 こうした姿勢は、オリンピック憲章が明記し、条例制定の前提とされている 「政治的またはその他の意見、 国あるいは社会的な出身、 財産、 出自やそ の他の身分などの理由による、 いかなる種類の差別も受けることなく、 確実 に享受されなければならない」という理念と明かに反している。東京都がまず なすべきことは、不当な差別的な政策を改めることであって、まずなによりも 小池都知事がこれまでとってきた差別を助長する政策への反省である。 そもそもオリンピックは、国別の競技として実施されている。こうした実施形 態そのものが、「本邦外出身者」への差別的な感情を醸成する土台になってい る。オリンピックは過剰なナショナリズムを支えるイベントとなり、国際政治 の道具となっていることは周知の事実であろう。オリンピックの主催者として、 東京都は、こうしたオリンピックそのものに内在する不当な差別的言動を喚起 する傾向を助長しないためにも、国旗掲揚や国歌の演奏や斉唱などといったオッ リンピック競技のありかたそのものを見直すべきであり、それができないので あればオリンピックを返上することが不当な差別的言動の解消にとっての最善 の政策である。 以上