東京都都市計画審議会に対して2016年12月に出された意見書。主に神宮外苑ホテル建設を批判した意見書。コンサルタント会社などを雇って都市計画の企画提案を出せる大企業等が自分たちが有利になる計画を出せる一方で、そのような力も金も無い庶民は法的規制にさらされる矛盾について批判した意見書です。(サイト管理者)
神宮外苑地区地区計画に関する意見書
アツミマサズミ
都市計画法17条2項の規定に基づき、上記都市計画についての意見書を提出する。今回の宗教法人明治神宮及び三井不動産株式会社により新宿区等を通じて東京都に提出された『東京都市計画神宮外苑地区地区計画企画提案書(Aー6)地区』に基づいて行われる神宮外苑地区地区計画に対して反対である。
まずは、2013年6月に改正された神宮外苑地区地区計画にすら上記の企画提案は合致していない点を指摘する。そもそも神宮外苑地区は明治天皇と昭憲皇太后の遺徳を顕彰する目的で全国からの寄付や勤労奉仕により整備され、戦前は国が管理し、戦後は時価の半額で譲渡され宗教法人明治神宮外苑として管理されてきた。このような歴史的経緯を踏まえれば神宮外苑地区は一宗教法人が多くの面積を所有している私有地ではなく、公共的色彩の強い場所である。その神宮外苑を大規模スポーツ施設、公園、既存施設等の再編整備を図る地区(A区域)と明治神宮聖徳記念絵画館、神宮外苑いちょう並木を中心とした緑豊かな風格ある都市景観を保全する地区(B区域)という具合に土地利用の方針を勝手に定めた上で区域わけし、A区域の広範囲に金儲けのための再開発促進区という網をかけた。この提案をしたのは独立行政法人日本スポーツ振興センターであり、それを容認したのは東京都都市計画審議会の各委員である。
今回の宗教法人明治神宮及び三井不動産株式会社は2013年の都市計画変更を奇貨として共有財産的意味合いのある神宮外苑地区を金儲けの手段として徹底的に利用するとしか思えない。
ホテルは大規模スポーツ施設ではなく、公園でもない。新規に建設するホテルは当然、既存施設等の再編整備にも該当しない。A区域で定めた土地利用の方針と今回の神宮外苑地区地区計画のA-6地区に作るホテル計画は何一つ合致しない。土地利用の方針に合致していない計画のつじつまをあわせるため土地利用に関する基本方針にA-6地区を追加するような地区計画の趣旨に逆行するような行為を東京都都市計画審議会は容認するな。説明会では神宮フットサル場をつぶすしてホテルを建設する旨の説明もされた。現在も利用されているフットサル場。それ以前ではフジヤマのトビウオこと古橋広之進が水泳の世界記録を連発した旧神宮プールをホテルにすることのどこにスポーツクラスターがあるのか。
そして都市計画の変更が認められた後、建築基準法68条の3の1項による容積率緩和や建築基準法68条の3の6項によった用途制限の緩和なども例外だから認めてくれと言ってくるのは目に見えている。東京都は宗教法人明治神宮という宗教関係や三井不動産株式会社という大企業の提案をうのみにして規制を緩和しながら、一般庶民に対しては法の厳格な適応を認めるという二重基準を行使するのか。
何の修正もなしに宗教法人明治神宮も三井不動産株式会社の提案を認めるなら「神宮外苑地区におけるまちづくりに係わる基本覚書」に係わった関係者だから容認し、その後「神宮が園地区(B区域)まちづくり基本計画」について再開発を進める関係だからと疑わざるを得ない。
次に今回の計画が東京都文教地区建築条例に適応しない点を指摘する。東京都は1950年に東京都文教地区建築条例を定めており、神宮外苑地区は第1種文教地区に指定されている。新国立競技場は別表第1の観覧場に該当するため、国立競技場の耐震改修等既存建物を元とした計画でなければ違法行為の可能性があったにも関わらず、歴史的経緯その他から新規建設が許可され、着工された。それと比較して今回のホテル計画はどのように辻褄を合わせるのか。別表第1でも別表第2でもホテルまたは建築物の建築の制限又は禁止に関する規定に該当しており、建設が認められるのは知事が文教上認める場合か又は文教上の目的を害するおそれがないと認めて許可した場合しか建設できない。神宮外苑地区にホテルが足りないというデータはどこにあるのか。現在建設中の高さ約72メートル地上16階、地下2階建ての日本青年館・JSC本部棟(仮称)の他に高さ50メートル地上13階建てのホテルを新規に建設する必然性がどこにあるのか。
新国立競技場建設で例外を認め、宗教法人明治神宮と三井不動産株式会社による金儲け目的のホテル建設のための都市計画変更及び文教地区への用途制限の緩和を認めながら、一般庶民には各種法規制を守らすという二重基準が許されて良いのか。東京都都市計画審議会各委員は真剣に考えるべきである。
第3にこの計画によって東京都が条例制定前から大切にしていた景観保持という視点が骨抜きになる危険性について指摘する。絵画館から約2キロも離れている日本テレビゴルフガーデン跡地に建設するビルの高さ180メートルの計画を120メートル以下に修正し、絵画館から約500メートル離れていたエンパイアコープを高さ120メートルから50メートルまで高さを抑えるように東京都が求めていたことが2014年3月25日付け東京新聞で報じられている。東京都はこのような形で聖徳記念絵画館の後背に超高層ビルが建つことによって景観が損なわれることを考慮して、神宮外苑地区のみならず、周辺に申しいれ、周辺住民も神宮外苑地区の景観が守られるならばということで法的根拠などがなくても東京都の申しいれに対し受け入れてきた様子が窺える。
従って、今回の宗教法人明治神宮と三井不動産株式会社の企画提案は法的根拠がなくても神宮外苑の景観を守るために自分たちの利害を度外視して配慮してきた近隣住民の気持ちを逆なでする行為である。それだけではない。今回のホテル建設は景観法によらない協議制度として国会議事堂、迎賓館、絵画館、東京駅丸の内駅舎の眺望を保全する景観誘導区域に当てはまる。事前に協議をしたのなら、なぜこのような企画提案書が出せるのか。そして東京都はなぜこのよう企画提案書をそのままにして都市計画原案を作成するのか。企画提案者の作成した絵画館正面や新宿御苑内の眺望地点からの見え方を見ただけで景観に影響が出ることは明らかではないか。
一般庶民に申しいれたように宗教法人明治神宮と三井不動産株式会社にも計画の変更を求める申し入れを行うべきだ。そのようなことをしていないならしていない理由を、したにも関わらず企画提案者が従わなかったらならばその事実を都市計画審議会の席上で明らかにした上で都市計画審議会の議論をすべきである。
その他にも土地利用に関する基本計画のよれば「既存樹木をいかして、緑豊かなオープンスペース等の整備を図るとともに」とされているが、現状どの程度の樹木が残されており、それらの木がどのように取り扱われるかだとか計画緑地面積がどの程度なのかという基本的データすら示されていないなど、終始一貫再開発したいという宗教法人明治神宮と三井不動産株式会社の金儲けに凝り固まった強欲な姿勢しか見られない。
このような宗教法人明治神宮と三井不動産株式会社の企画提案が何一つ変更されず、提出原案のまま可決するようなら風致地区制度や文教地区などの法規制にどのような意味があるのか。コンサルタントなどに依頼をして企画提案書を出すことが出来ない庶民のみを規制するのが都市計画の目的なのか。
今回の神宮外苑地区地区計画は2017年2月3日の第216回都市計画審議会でこの件が付議予定案件としてあがっている。東京都都市計画審議会の各委員は都市計画に照らして問題があるこのような都市計画変更を認めるならば、歴史上の審判を受ける覚悟で審議に臨んでいただきたい。
以上
(東京都都市計画審議会に対して2016年12月に出した意見書)
別紙 参考資料
「新国立」高さ制限緩和 石原都政では美観保護 2キロ先のビルに「低くして」
(2014年3月25日付東京新聞)