スポーツイベントは、スーパースプレッダーであってはならない。オリンピックは中止すべき

ジュールズ・ボイコフのニューヨークタイムスへの寄稿の仮訳です。ボイコフの新著飜訳『オリンピック 反対する側の論理:東京・パリ・ロスをつなぐ世界の反対運動』(作品社)を是非お読みください。



スポーツイベントは、スーパー・スプレッダーであってはならない。オリンピックを中止すべき
2021年5月11日
ジュールズ・ボイコフ

ボイコフ氏は、オリンピックを研究する政治学者です。著書に "Power Games: A Political History of the Olympics" 。

東京オリンピックが大変なことになっている。国民の約60%が今夏の開催に反対し、国民の2%未満だけがCOVI-19の予防接種を受けている日本で、1年延期されて7月に開催予定のオリンピックが政治的な火種になっている。

国際オリンピック委員会、地元のオリンピック組織委員会、日本の与党は、パンデミックの状況下でも大会を開催しなければならないと主張している。1月に日本でCOVIDの感染者が急増した際に、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長は、「東京オリンピックが7月23日に開催されないと信じる理由は何もない」と述べた。さらに、「プランBはない」とも語った。

多くの観客にとって、オリンピックの最大の魅力は、世界中から様々なスポーツの選手が集まり、一堂に会して競い合うという非現実的なあつかましさにある。しかし、世界的な公衆衛生上の危機の際に、これが致命的な結果をもたらす可能性がある。

科学に耳を傾け、この危険な茶番劇を止める時が来た。東京オリンピックは中止すべきだ。

東京オリンピックは中止しなければならない。しかし、オリンピックという機関車は爆走している。主な理由は3つある。金、金、そして金だ。はっきりさせておきたいのは、その金のほとんどは、アスリートではなく、大会を管理、放送、スポンサーする人たちに流れているということだ。

I.O.C.は約10億ドルの準備金を保有していると言われているが、夏季大会はI.O.C.の重要な資金源であり、コロナウイルスでさえもオリンピックの権力者たちを説得してそれを閉じさせられない。オリンピック主催者は公衆衛生のために自分たちの利益を犠牲にすることを望んでいない。

放送局からの資金はI.O.C.の収入の73%を占めており、さらに18%は企業パートナーからのものだ。2014年、NBCユニバーサルは、2022年から2032年までの6つのオリンピックの独占放送権を得るために、77億5000万ドルを支払うことに合意した。I.O.C.や放送局は保険に加入しているが、オリンピックを中止することは、彼らの利益を無にすることを意味している。

2020年3月に開催された東京大会は、世界中のアスリートやスポーツ関係者から、パンデミックの最中に開催することに疑問が投げかけられ1年間延期された。東京オリンピックの開催時期は7月と8月に変更された。この時期は東京では最も暑い時期だが、テレビのスポーツ番組にとっては利益の出る比較的空いた時期だ。

科学者や医療関係者の多くは、はっきりとした反対意見を持っている。ただでさえ医療体制が厳しい日本で、COVID-19の感染者が増加しているのだ。先月発行されたBritish Medical Journal誌の論説では、オリンピックの計画を「緊急に再考しなければならない」としている。「科学的・道徳的な要請を無視して、国内の政治的・経済的な目的のために2020年の東京大会を開催することは、世界の健康と人間の安全保障に対する日本のコミットメントと矛盾する」と著者は書いている。

東京オリンピックの関係者は当初、大会のスタッフとして1万人の医療従事者が必要だと見積もっていた。主催者が最近、500人の看護師の増員を要請したところ、日本では医療資源の悪用とみなされて大炎上した。日本医労連の事務局長は「患者や看護師の健康や命が危険にさらされているにもかかわらず、五輪開催に固執する姿勢には非常に憤りを感じる」と述べている。

日本の公衆衛生の専門家も同様に大会反対で一致している。東京都医師会の尾崎春夫会長は「国内外の感染症を増やさずに大会を開催するのは非常に難しい」と述べている。また、神戸大学医学部附属病院の感染症専門医である岩田健太郎氏は、より厳しい意見を述べた。「これほど多くの観客、スタッフ、ボランティア、看護師、医師が集まるスポーツイベントを、一体どうやってうまくやれるというのか。こんな状況で誰が大会を楽しむことができるのか」。

オリンピックの権力者たちの反応は?決まり文句と衛生観念。

I.O.C.の会長は声明の中で、「日本国民は歴史の中で忍耐力を示してきました。逆境を克服する日本国民の能力があるからこそ、このような非常に困難な状況下でのオリンピック開催が可能なのです」と述べている。7万8千人のオリンピックボランティアには、一握りの布製マスク、除菌剤、社会的距離のスローガンが割り当てられているという。

先月、オリンピック組織委員会は、Covid-19の危険性を軽減するためのガイドラインを発表した。すべての参加者は、日本に出発する前に2回の陰性反応を登録しなければならず、到着後も毎日検査を受けることになっている。また、公共交通機関の利用を控え、レストランではなくテイクアウトの食事をすることが求められている。ただし、選手は隔離の必要はなく、予防接種も必要ない。海外からの観戦も禁止されているが、それでも何万人もの人々が大会のために日本に入国する。

理屈の上では、I.O.C.、地元のオリンピック組織委員会、そして大会開催のために何十億もの公的資金を投入している日本政府が、中止や延期などの決定について協議することになる。しかし、オリンピック開催都市の契約書の付録には、「大会の全体的な範囲を大幅に変更する」場合の決定について、最終的な責任はI.O.C.にあると記されている。

I.O.C.はしばしば「アスリートファースト」を強調し、オリンピアンからの意見が東京2020の意思決定プロセスの鍵であると主張している。しかし、日本の天才テニスプレイヤー、大坂なおみ選手をはじめとする著名なアスリートたちは、大会を続行すべきかどうか、声を大にして悩んでいる。アスリートと関係者のための最新の「東京2020プレイブック」では、アスリートのストレスを和らげることはできない。プレイブックには「しかし、あらゆる配慮にもかかわらず、リスクや影 響 が 完全に排 除されるとは限らないため、オリンピック・パラリンピック競技大会への参加は自己責任で行うことに同意するものとします」とある。これは、「アスリートファースト」というよりも「Covid-19」に関する権利放棄のように読める。

オリンピック関係者は、大会はスポーツ以上のものであるとよく公言している。パンデミックが私たちに教えてくれたことがあるとすれば、仲間意識、家族、友人、公衆衛生など、お金よりも大切なものがあるということだ。I.O.C.はこのことに気づくのが遅かったが、正しいことをするための時間はまだある。

I.O.C.は、世界で最も広く普及しているにもかかわらず、最低の説明責任しか果たしていないスポーツインフラを監督している。I.O.C.は、生来何をやっても免責されるという観念のとりつかれているようにみえる。オリンピックを推進することは、スポーツへの渇きを癒すために毒を飲むようなものだ。スーパー・スプレッダーの大惨事の可能性を招くほどの値打ちは自由意思で行なわれるスポーツ・スペクタクルにはない。東京オリンピックを中止する時が来た。

ジュールズ・ボイコフは、パシフィック大学の政治学教授で、『NOlympians』と『Power Games:A Political History of the Olympics』の著者。

出典:https://www.nytimes.com/2021/05/11/opinion/cancel-olympics.html

下訳にhttps://www.deepl.com/translatorを用いました。

(小倉利丸訳)